Mataura river
マタウラリバー


マタウラリバーで初めてのニュージーランド


初の日本脱出

5年前の97年の2月。
初めて私がニュージーランドに訪れたときのことだった。
ニュージーはすんごい場所で、でっかいマスがたくさんいて、水が美しく澄んでいて・・
雑誌と友人の話から頭だけはでかくなり、まだ見ぬニュージーの世界に、
夢や期待を遙かに越えた何というか武者震いのような、
メラメラと燃え上がる炎のような・・・とにかく体は熱くなっていた。

飛行機は南島のクイーンズタウンに着陸した。
雪と氷の北海道から、突き刺すほどの強い日差し半袖短パンのまさに真夏の世界に、
「世界ちゅーのは広いもんだなぁ」と一発目の衝撃を覚えた。
オシャレすぎる高い山が、観光客でにぎわう華やかなクイーンズタウンの町を囲み、
青く澄んだワカティップ湖を歩く外人たちに、
「ここは日本じゃねーな」と、見るものすべてが新鮮でキョロキョロしていた。
同時にどこからともなく日本語も耳に入ってきて、日本人の多さにもまた驚いた。
友人とレンタカーを借り、さらに南のクイーンズタウンの町へと出発した。

羊がたわむれる田舎道を走っていると、突然いい川が現れた。
「どんな川?」と車を止めると、
牧場の中をヤナギの木に囲まれて流れている。
見たことのない水の透明度に川底の石はくっきりと浮かび上がって見えた。
「橋桁に着いている魚がいるのでは?」と乗り出して下をのぞき込むと、
「オオッ!!!」
なんとびっくりでっかい魚がゆらゆらしていた。
「これがニュージーなのか、こんな道のすぐ脇に50pを越す魚がいるのか、
こりゃすごい、、えらいことになりそうだ。」
釣ってもないのにいい気分だった。

    
          何気なく橋の下を覗き込むと、
        ユラーッと60pのブラウンが泳いでいた。

SH6(国道6号)の橋に車を止め、そこから上流を釣ってみることにした。
「大きなマスに遊んでもらえる」という期待とは裏腹に、
魚は全く見つけることが出来ず、たまに見える魚は逃げてゆく魚ばかりだった。
良さそうなポイントにひたすらフライを投げ込んでみても反応はなく、
ニュージーまで来てどうにもならない釣りに終わった。


グリーンとの出会い


                        
 グリーン:ヘイ、釣れるか?
        私:お前がそこから頭を出したら魚が逃げるじゃねーか!

魚はどこにいるんだ?どう見えるんだ?サイトフィッシングってどうやるんだ?
午前中の釣りに頭の中はハテナだらけで、半分めげていた。
橋の下に見えた魚を狙ってみても、
底に沈んだ魚は何を流しても反応はなく、しつこくとフライを流しているときだった。
橋の上からわけの分からない言葉(英語)が聞こえてきた。
見上げるとニュージーランド人がいた。
「釣れるか?」と聞いているようだった。
狙っている魚の真上に立たれたら、釣れる魚も釣れないよ、と思いながら挨拶を交わした。
車に戻りマタウラリバーを後にしようとしたときだった。
さっきのキウイが遠くで指笛を鳴らし、両手を大きく広げ、おいでおいでをしている。
「こりゃ本場の釣りがみれるチャンスだ」とばかりに、
羊をはねのけ、彼の元へと走り寄った。
何を言っているかよくわからないけど、
「大きな魚がいるからついてこい」と、そんな感じだった。
自己紹介もすませ、グリーンという名前だとわかった。
セージのキャップをかぶり、半袖にベスト、
短パンにスニーカーというラフにきめたスタイルがカッコ良かった。
魚を探してスタスタと歩くグリーンに、
ウエーダーをはいている私は着いて行くだけで汗だくになった。

   
                
ヒツジを横目に川をめざす

サイトフィッシング

少し歩いては川の中をにらみ、移動。また魚を探しては移動・・・
とばかりにどんどんと進む。
「ここは絶対魚がいるよ」と思うようなポイントでも、魚が見えなければ無視無視。
少し歩いたところでグリーンの動きが止まり、ロッドで川を指した。
何々?とその先を見ると、
「ズゲェ!」
岸から50pほど離れ、水深30pくらい。
緩い流れの中で丸見えの大きな魚がゆらゆらしていた。
(45pくらいだったけど初めての私を興奮させるには十分大きな魚だった)
さらにグリーンは「お前がやれ」とその魚を私に勧めてくれてた。
「お前いいヤツだなぁ、もしかして後でガイド料として金取るんじゃねーだろーなぁ」
と思ったけど、とにかく「やったろーじゃねーの」と、気合いが入った。
すでに普段の平常心はどこかへ消え去り、心臓と足がドキドキガクガクと震えていた。
川の中に入り、リールから糸を出す。
たまに見せるパクッとやる動作に、興奮は絶頂に達していた。


    
水深30p、バンクから50p。ブラウンが揺れパコっとライズする。
      心臓は飛び出るほどにバクバクし、膝は力なくガクガクする。

まず一発目はパラシュートタイプのフライを投げてみた。
魚はフライを無視し、グリーンの「フライチェンジ」という声に、
結んでくれたのは、ラフに巻いたコンパラダンのようなフライだった。
一投目、投げたフライは魚の右60pほどに落ち、
ミスキャストだと思って見ていると、
魚がフライに気づきゆっくりとフライに近づいてきた。
「お前それ食う気か?食ったらお前も大変だけど、俺の方がもっと大変なことになるぞ、
でも食ってくれ、たのむ食え・・・」
フライの臭いを嗅ぐかのように、フライのすぐ手前で止まったままの魚に、
私の呼吸は停止し、心臓は口から飛び出しそうに興奮を抑えた。
魚は口を開けないまま、定位置に戻ってしまった。
もう一度流してみたけど、ちらっと見るだけで、だめ。
結局どこかへ消えてしまった。

ニュージー初めての川で、初めて魚を見ながらの釣り、
今にも自分のフライに食いつきそうな大きな魚。
それだけで十分だった。
これがサイトフィッシングなのか、これがニュージーランドなのか、
つかのまの出来事だったけど、日本の釣りしか見たことがなかった私には、
衝撃的な一瞬で、「世界ちゅーのは広いんだなぁ」と、
つくづくここにいる自分に満足した。


グリーンがトライ


                           
 Can you see that fish?
                グリーンが指す先に見えるのは黒い影だけ。

アザミのトゲトゲの中をザクザクと歩く。
肌むき出しのグリーンの足に、「痛くないのかなぁ」と思っていると、
またグリーンの動きが止まった。
ロッドを向けた先を見ても、あるのは黒い陰だけで、
同じような陰は流れの中にいくつもあり、それが魚なのか石なのか、
さっぱりわからなかった。
「トライ ユー」と今思えば変な英語でグリーンに勧めた。
はじめからニンフを結んだグリーンの竿には、
目印となるインジケーターもついていなかった。
「どうやって釣るんだろう?」と見ていると、
何度かキャストを繰り返すグリーンの竿が大きく曲がり、でっかい魚がジャンプした。
「グリーン、お前すごいよ!ほんとに魚だったんだな!」
興奮してるのは私だけで、グリーンはクールに魚をなだめている。
結局針がはずれて逃げてしまったものの、私は幸せだった。


     
うーん、何でバレたんだろう・・・・

その日の釣りはこれで終わり、3人で車に戻った。
ニュージーのサイトフィッシングがどんなものかわかるには十分な午後で、
グリーンには大感謝だった。
おまけに秘密の川もいくつか教えてもらい、Good Luckでグリーンと別れた。

これが私の衝撃なニュージーランドの釣りとの出会いであり、
これを期にニュージーランドの森、山、川、釣りにどっぷりとハマってしまったのだった。
02年5月1日北海道音更より




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